*バルバッド編後







「…今日も駄目、ですか」

机上にそっくりそのまま残された料理がどこか物悲しい。バルバッドからこの地…シンドリアへ移動してしばらく経ったが、バルバッド国より食客として招いた人物はずっとふさぎ込んでいる。無理も無い、彼は…アリババ・サルージャはあの戦いで大切な友人を喪ったのだから。自国の王であるシンドバッドに頼まれた事もあり、ジャーファルはアリババ達の身の回りの世話を進んで焼いていた。勿論政務もつつがなく、その合間に不自由の無いよう時間を見付けてはなるべく傍に在るよう努めた。









「アリババくん?」

ある日彼にあてがわれた部屋へ足を運ぶと、珍しくたった一人でいた。常であればアラジンもしくはモルジアナが共にいるのだが、二人の姿は見当たら無かった。

「アリババくん」
「ぁ、じゃーふぁる、さん」

かすれた声が痛ましい。机に伏せていた顔が上がれば泣いていたのだろう…赤くなった瞳が視界に入った。

「何か飲みませんか?」
「いえ、すみません…いいです」

せめて一口だけでもと勧めてみるが、弱々しく首を横に振るだけで。






バルバッドで出会った時、ジャーファルはアリババに対して特にこれといった関心を持てないでいた。どういった信念を持ちどう動いていようが賊は賊。シンドリアにとって不利益に働くような障壁ならば消すだけだ。何よりシンドバッドが動くならば自分はただ付き従うのみであり、事態の収束もすぐだろうと感じていた。…まあそれはシンドバッドにより思わぬ方向へ向かってしまったのだが。

それから行動を共にするようになったが、ジャーファルにはとてもアリババが王の器だとは思えなかった。例え現王を引きずりおろしアリババが代わりにその玉座に座ろうとも、すぐにその王政は綻び終わる…そんな未来しか見えないでいた。ジャーファルから見ればアリババは普通の少年だった。国を人を背負える程の器などこの少年には無い。それがあの頃の素直な感想であった。自信なさげな横顔と押し潰されそうな現状に同情はしたが、それだけだった。…そんな感情が動いたのはいつだったか。行動を共にしている内に降り積もる気付き。彼の少年は一つを決めてしまえばただただひた向きで、他人を誰かを思って命を削れる子であった。殺すか殺されるか…非情の世界で生きてきた自分にとって、そんな彼の行動は微笑ましくも不思議で、心の端ではどこか滑稽にも思えた。けれど目の当たりにした現実の確かな衝撃は今も覚えている。

そんな彼に、世界は酷だったけれど。




(そうか…だからこそ)

見てきたからこそ、この子が今こうしていることが悲しいのか。人のために在れる子だからこそ、自分は…。




そういえばカシムといったか、あの少年は。


(置いていく位ならば、)

そこまで考えてハッとする。今自分は何を考えたのか。軽く頭を振って視線を下げると、アリババは再び顔を腕の中に埋め伏せていた。小さく震える身体がやけに頼りなく見える。

「ッし、む…」

こもった微弱な声が耳に届いた。繰り返される同じ音はただの一人しか追っていない。

「…か、し…っ、」








(“カシム”)







「っ、」




気付けば彼を仰向けに机上に組み伏せていた。キツく掴んでしまった腕が痛いのだろう、寄せられた眉間の皺と僅かな呻き声。警鐘が鳴る中けれど力を緩める事が出来ない。胸奥からせり上がってくる御しきれない獰猛な感情。

「…ジャーファルさ、痛ッ」
「今君の目の前にいるのは誰ですか」


ああこの醜く酷い衝動、は、



「ッ私、でしょう?」







(、嫉妬だ)







「君はいつになればこちらを見てくれますか。どうすればこちらを向いてくれますか」

非道い事を言っている自覚はある。彼はただ大切な友人の死を悼み悲しんでいるだけだ。普通の事だ。けれど…けれど。


「あの日からずっと…全てを拒絶するように痩せ弱っていく君を私はただ見ているしか」
「ジャーファル、さん?」

揺れる綺麗な琥珀の瞳…その中に映る自分の歪んだ顔に嘲笑が浮かぶ。だがその実更に情けなく表情が歪んだだけだった。

「お願いですから…つらいならつらいと、言って下さい」

(どうか口に出して)
(言葉にして)

「もっと大人を…私を頼って下さい」

(君はいつだって一人で決め立とうと何でも抱え込む子だから)









「…アリババくん」

















耳元で一つ小さく落とした謝罪は果たして彼に聞こえたのか。微動だにしない少年を世界から隔絶するように腕の中に閉じ込める今、初めてジャーファルはこの子が好きだとキツく目を閉じた。






***




ん?あれ?

ええっととりあえずマリ様、この度は5000打企画にご参加下さりありがとうございました!

ジャーファルの嫉妬話を…との事でしたが…こ、こんなので宜しいですかね大丈夫ですかね申し訳ないです!自分でもあれ?嫉妬話ってあれ?何だか重くない?あれ?となっています。もしかしたらこう、シンドバッドさんやシャルルカンさんに対しての嫉妬で結局ラブラブなそういったお話を描かれていらっしゃったならすみませんんんん。…一応この後ちゃんとジャファアリラブラブ展開にはなるという将来に丸投げ感な構想もですね、はい。

もう何だか重苦しい話でごめんなさい!苦情はいつでもどうぞ!!(土下座)

それでは本当にありがとうございました!(*´▽`*)